小学校の閉校や廃校が加速している状況で、地域住民会議の要望と在り方について私見を述べておきたい。地方においては、人口減少に伴い子どもの数が激減していることは、ご存じのとおりだ。この閉校や廃校によって地域の大きな小学校に統合され、児童は転校することになり、学習環境の変化に伴う児童のメンタルが非常に気になるところだ。
最近、ある小学校の閉校について、市に要望をまとめる地域住民会議に出席した。「要望」なので、最終的に市の行政がどう判断し、施策をするかは、今後の協議で決めていくことになる。その要望内容や地域住民会議の在り方について、住民の一人としての私見を述べていきたい。これから閉校または廃校になる地域において、要望内容や地域住民会議の在り方について参考にしてほしい。
【目次】
1.閉校と廃校の違い
2.小学校の閉校に関する基準
3.教員の配置基準と閉校
4.閉校の判断はだれが決めるのか
5.地域住民会議の出席者はだれか
6.地域住民会議の要望内容のずれ
7.市担当者の立場と意見
8.地域住民会議における私見
9.まとめ
1.閉校と廃校の違い
小学校の閉校と廃校と何が違うのだろうか。「閉校」とは、小学校という児童の学習施設としてこの施設は使わないが、他の目的のために利用する予定があり、廃校は学校としても、何か他の活動場所としても使わない、という意味があるようだ。今回の場合には、この小学校施設を何か別に利用しようという考えがあるので、「閉校」という言葉を使っているように感じられた。「廃校」という表現だと建物自体を取り壊したり、そのままの状態で放っておく、という意味合いに感じてしまうので、地域住民の感情を少しでも和らげる意味で「閉校」という表現を使っているようだ。
2.学校の閉校に関する基準
学校を閉校にするという法的な拘束力をもつ基準はないが、文部科学省では「適正規模・適正配置等に関する手引き(参照1)」が通知されている。この文部科学省の通知では、学校の規模として国が定める標準級数「12学級以上18学級以下」と書かれている。それを受けて、長野県では「学年に複数級ある」と「少なくとも学年で20人程度確保」が望ましいと「少子・人口減少社会に対応した活力ある学校環境のあり方及び支援方策」(参照2)との答申を受けている。この答申がある一定の基準になっている。
文部科学省の手引きおよび長野県条例に基づき、長野市では「長野市学校設置条例(参照3)」と地方自治法(参照4)により、学校名と位置(住所)が規定されている。この条例は、市議会の議決により40回以上も修正されています。つまり、小学校が学校としての機能が無くなったら、長野市議会で修正・可決されないと閉校も廃校もできない、ということになる。実は、この学校設置条例が市への閉校要望の決まりごとになっている。。
この文部科学省、長野県、長野市とも、1クラスにおける最小児童数は書かれていない。現在の児童数が少ない学校においては、「複式学級」という1-2年生、3-4年生、5-6年生が同じ教室で同じ学級として学んでいる場合が多い。つまり、児童数が少ない小学校は3クラスだけであり、1学年ごとに1クラスずつあるわけではない。さらに、1クラス当たりの最小児童数については、次項に述べる「教員の配置基準」が大きく関わっている
参照1:「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引き(平成27年1月27日 文部科学事務次官 山中伸一)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shugaku/detail/1354768.htm
参照2:少子・人口減少社会に対応した活力ある学校環境のあり方及び支援方策の概要について
https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/gimukyo/goannai/soshiki/documents/shienhousakugaiyou.pdf
参照3:長野市学校設置条例(昭和41年10月16日長野市条例第101号)」
https://www.city.nagano.nagano.jp/reiki/H341901010101/H341901010101_j.html
参照4:地方自治法第244条の2第1項;公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。2 普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない。
3.教員の配置基準と閉校
長野県では少子化に対応した教育環境について審議がおこなれており、平成30年に答申を受けている。(参照5)。その中で最も注目すべきことは、「教員の配置基準」だ。繰り返しになるが、児童数が少ない小学校は、「複式学級」という1-2年生、3-4年生、5-6年生が同じ教室で同じ学級として児童数がカウントされ、担任の先生も1名が基準だ。その複式学級において、いずれかの学級人数が8名より少なくなった場合には、閉校を検討する段階になる。
つまり、学校が存続するギリギリの児童数は1学級あたり8名だ。例えば、1年生と2年生を合わせた児童数が8名を下回ると予想される場合には、教員人数が減らされるということだ。基準としては、一人の担任が1年生から4年生までの授業を受け持つということになり、実質的に、学校運営が不可能になるということだ。
現在、限界ギリギリの小学校では、学級担任が3名と校長、教頭を入れて、合計5名で学校運営にあたっている。この教員は「長野県」の教職員で県の費用だ。ただし、長野市の場合には長野市の費用負担によって、講師として3名程度が追加され、8名程度の教員や講師が学校を運営しているのが現状だ。このような限界の全校児童数としては3学級×8名=24名程度の児童数の学校という規模になる。(表1を参照)
つまり、1-2年生、3-4年生、5-6年生のいずれかの複式学級において、児童数が8名を下回った場合には、閉校せざるを得ないということだ。来年度、入学予定の新1年生が少なく、1-2年生合わせた複式学級が8名を下回ると予想される場合には、教員数を減らされる可能性があり、閉校ということになる。飛び複式学級という基準もあるが、現実的ではない。また、実際には庁務(事務員)や学校司書などが配置されている学校もある。
【表1:規模が小さい学校の教員配置例】
学年 | 児童数 | 国の基準 | 長野県 複式解消 |
長野市 講師・専科 |
1 | 4 | 1人 | 1人 | 2人 |
2 | 4 | |||
3 | 4 | 1人 | ||
4 | 4 | |||
5 | 4 | 1人 | ||
6 | 4 | |||
教頭 | ー | 1人 | ー | ー |
校長 | ー | 1人 | ー | ー |
全校 | 24人 | 5人 | 1人 | 2人 |
このような児童数の少ない小学校では、担任の先生は8名程度の児童について指導することになり、先生と密に接したり、年上の子が年下の子の面倒をみたりと、アットホームな雰囲気がある。しかし、児童数が少ない複式学級なので、カリキュラムに沿った学習がしにくい、音楽や体育などのチームでの活動ができなくなる、友達関係やお互いの評価が固定化してしまう、数多くの意見を知ることが少なくなる、などの問題点が挙げられる。
参照5:平成30年6月27日 山沢委員長から近藤教育長に、「少子化に対応した子どもにとって望ましい教育環境の在り方について(審議のまとめ)」の答申
https://www.city.nagano.nagano.jp/documents/752/311808.pdf
4.閉校の判断は誰が決めるのか
いったい閉校の判断は誰が決めるのだろうか。最終的には、市議会において長野市立学校設置条例の改正案の議決による。手順としては、対象となる小学校の校区の地域住民やPTA会から地域住民会議へ要望を出し、市の教育委員会が改正案を議会に提出して、市議会で議決し、決定ということになる。
その過程の中で重要なことは、校区の地域住民とPTA会との意見調整、そして地域住民会議と教育委員会との付帯条件などの協議と2つの段階が重要だ。先述のように、閉校するかどうかは、教員配置基準によって、決まってくると言っても過言ではない。教員が減らされ、児童にとって好ましい教育環境とは言えないし、学校運営自体もできなくなるからだ。
さらに、閉校がほぼ確実視されると、学校の設備関係の費用が大幅に削られる。例えば、教室内の電灯が切れたのに交換できない、壁やドアが壊れても修理できない、体育で使うボールなども新規購入できない、などが挙げられる。
5.地域住民会議の出席者はだれか
この地域住民会議出席者の名簿には、区長会、PTA、地元代表、公募者に加えて、長野市教育課、長野市議はが名前を連ねていた。この名簿を見た際には、すぐに違和感を感じた。その違和感とは、当事者である児童や現在担任の先生、統合先小学校の教員や校長が参加していなかったことだ。さらに、PTA代表以外はほとんど60歳以上の高齢者の男性であり、女性もたった一人であったこともさらに違和感を感じた。
地域住民の会議であるものの、いちばん影響をうけるのは、その児童であることは明らかだ。その児童には意見を言う権利がある。
国連の「子どもの権利条約」を1994年4月に日本は批准し、「子ども基本法」が2023年4月に施行されてる。この子どもの権利の中に「意見を表す権利」がある。そして、日本では子ども基本法の第3条に「全ての子どもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。」そして「全ての子どもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。」とあります。
小学校の児童の意見を聞かない地域住民会議は、ほとんど意味がない。もうすでに閉校が決まっていることは児童もわかっており、その児童からの意見を聞かずに大人たちだけで何かを決めることは、パターナリズム(温情主義)そのものだ。つまり、「善かれと思ってやってあげている」という考えは、障害者権利の基本的な考えである「Nothing about us without us (私たちのことを私たち無しで決めないで)」という要件とともに、権利の侵害になるからだ。子どもの権利も障害者の権利も同じで、対象の児童の意見を聞かずに決めることは、あってはならない。
具体的に子どもたちからの意見として予想されるのは、「○○ちゃんと仲が良いので、転校先で同じクラスにしてほしい」、「○○先生がすごく好きなので、転校先の先生になってほしい」、「○○ちゃんとは別の小学校に行きたい」、「転校先でいじめられたらどうしよう」「うるさい場所が苦手なので不安」など、実際に声を聞いていくことが大切だ。
学校で児童をしっかり見ているのが現担任の先生なので、先生の意見を聞くことも大事だ。それぞれの児童の傾向や性格、特別な対応が必要なこと等を話していく。もちろん、個人が特定できるような表現を避けることだ。また、子どもの意見と先生の意見が食い違っている場合には、何かの問題が潜んでいる可能性があるので、スクールカウンセラーなどの専門家による双方の支援が必要だろう。
統合先の先生や校長先生は、転校生がクラスに入ってくる前より、十分に前担任などと協議をして、児童の様子を引き継いでほしい。しかし、「○○ちゃんは問題児」などの固定概念が形成されないようにするべきだ。また、転校生に対するいじめ、同和地区出身などと差別的な発言をしない、などは、統合先の児童に対する教育や指導も必要だろう。校長としては、それぞれの転校生の意向を反映できるようにしながら、いじめや孤立を防ぎ、多様性を認めあう学校とすることだ。
6.地域住民会議の要望内容のずれ
この小学校の閉校に伴い特別に設立された住民の委員会は、地域住民協議会に対して、「閉校の時期は最短の令和○○年度末を希望する」と要望書を提出している。この要望内容に非常に違和感を感じざるを得なかった。
閉校するには、市議会の議決が必要であり、閉校時期が遅れると教員が減らされるという事態に陥るので、決定を急ぎたいという気持ちは理解できる。また、この住民の委員会として、「閉校する」という意見集約されことは評価できる。校区に住む住民すべてにアンケートを配布し、意見集約するだけでも大変な作業なことも理解できる。しかし、そのアンケート結果の公表がなかったことが不満だ。アンケートの質問文、配布の総数、有効回答数、どのような具体的な意見があったのかも、公表されていない。会議において閉校に付随する要望事項については、市と協議することになっているという回答だった。
しかし、「閉校してほしい。さらに最短で閉校してくれ」という市への要望で、あとは協議するというだけでは、あまりにもお粗末としか言いようがない。保護者会と学校の協議で、どのような意見が出たのかも会議中には発表がなかった。例えば、スクールバスの手配や転校先のクラス決め、現担任の先生の処遇、給食の変更、学校用具の準備などがすぐ思い浮かぶ。しかし、このような具体的な内容についての発表はなかった。
市の要望としては、転校する児童生徒のメンタルのサポート体制が優先すべきではないだろうか。スクールカウンセラーや臨床心理士などの専門家により、精神的サポートを転校前と転校後に児童との面談や相談体制の構築を要望することだ。さらに、保護者、教員へのメンタル面も含めた配慮も重要な体制と考える。
7.市担当者の立場と意見
長野市では「少子化に対応した子どもにとって望ましい教育環境の在り方」の答申を基準にしていおり、その中で2つの大きな項目がある。
・どの発達段階にあっても「集団の中での学び」が大切
・できる限り「地域に学校を残したい」
この答申に基づき、市の担当者の立場としては、「閉校するか、それとも閉校しないのかは、住民の選択肢に依るもの」という立場は良いことと評価する。市担当者の立場上、市内の学校の児童数や、教育委員会公開されているデータだけを述べたるしかなかったともいえる。県や市の経済的負担の金額、スクールバス等の転校に伴う費用、現在までの他校の要望事項や事例など、の要望の参考になる情報を聞きたかった。さらに、市内における閉校後の校舎利用などの参考事例もあればよかったと感じた。余談だが、文部科学省では、「未来につなごう、みんなの廃校プロジェクト」(参考6)という情報提供サイトがある。
参考6:「~未来につなごう~「みんなの廃校」プロジェクト」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm
8.地域住民会議における私見
学区内の保護者と小学校の意見集約により、閉校するということは致し方ないことだと思う。心配しているのは、児童のメンタルへのサポート体制だ。学校内の支援学級や中間教室、放課後デイサービス、子ども食堂などの行政施設、フリースクールや親の会などの民間団体もふくめ、児童生徒をサポートする政策や施設が広がっていることはご承知のとおりだ。これらのマイノリティ(少数派)の多くは、さまざまな生きづらさを抱えている。いじめやハラスメント、家庭内虐待、教育虐待、貧困、発達障害などの複合的要因に加えて、転校などの学習環境の変化がある場合には、メンタル面でのサポートが絶対的に必要だ。
親にも、学校にも「助けて」と言えない社会の空気が、子どもの気持ちを破壊し、体の不調から支援学級や保健室登校、不登校、ひきこもりとなっていく。さらに、リストカットやオーバードーズ(市販薬乱用)、自死へと向かってしまうのだ。現在では、どんな子どもにも何かしらの問題を抱えている。学校内ヒエラルキー(階層構造)、同和問題、夫婦間や兄弟間の不和や虐待、一人親家庭の会話不足と貧困、勉強を強要する教育虐待、友達からの裏切り、SNSでの誹謗中傷など、数え上げればきりがない。だからこそ、閉校に伴う転校という大きな環境の変化には、児童のメンタルサポートの体制が必須なのだ。
具体的な体制としては、スクールカウンセラーの配置または臨床心理士や精神科医などの専門家の支援体制を構築することだ。付け加えると、できるだけ同じカウンセラーでおこない、顔見知りとして信頼関係を築き、定期的な面談やフォローアップがよいだろう。閉校する前段階より、カウンセラーが関わり、転校後も数ヶ月程度は面会頻度を落とさずに対応することで、一人ひとりの児童の変化を感じ取ることができ、素早い対応が可能になるだろう。
スクールカウンセラーの役割として、児童中心に行うのだが、保護者や担当教員とも面談の時間を増やしてほしい。保護者も教員も、子どもに対して「どうしたらよいか」と悩んでいる場合が多い。保護者は、普段の接し方や何気ない言葉や態度がきっかけとなり、児童に大きな心の傷を負わせてしまう可能性があるからだ。教員は、自分自身の配置転換の心配や、今まで密に関わってきた子どもたちの成長が気になっているからだ。
今後は、さらに閉校や廃校を余儀なくされる小学校や中学校が増えていくことは、容易に予想される。私たち住民としても、以前通っていた学校が無くなることは非常に不甲斐ないことと言えるだろうし、残していきたいと思う気持ちは変わらない。しかし、もっとも大切なことは今現在の児童生徒に心を寄せることだと思う。「やってあげている」というパターナリズムな考えではなく、子どもの人権を尊重し、一人ひとりに寄り添い、自由な学習環境を整備していることだ。それは、現状の学校システムだけではなく、ホームスクールや通信制学校、フリースクールなどの多彩な学習環境を選択できるようにすることではないかと思う。
また、児童生徒が気軽に相談できるシステムや、保護者においてもカウンセリングが受けられるような体制も必要になってくる。そして、私たちも人間の心理と行動を理解し、学んでいくことが、自分自身のためにも、親子にとっても、希望の道しるべとなることを願っている。
9.まとめ
閉校や廃校による地域住民会議の要望と在り方について、私見を述べた。
まず、閉校と廃校という表現の違いは、閉校のほうが住民感情を和らげる意味合いがある。小学校の閉校に関する基準については法的な根拠はないが、文部科学省の指針や市町村での審議会の答申が、ある一定の基準が決められている。実質的には教員の配置基準として、複合学級での最小児童数が8人となっており、これが閉校の基準となっているだろう。
最終的に閉校は、市議会によって学校設置条例の改正が可決されるという手続きになる。この手続きには、校区内の保護者会と学校の協議の後、地域住民会議から市に要請をして調整していくことになっている。しかし、この地域住民会議の出席者には、当事者である児童や担任教師などが含まれていない。さらに、要望事項として「閉校する」ことが最優先に感じられ、付帯する要求にはあまり触れられていなかった。
また、市職員の立場からは、地域からの要請であり協議を重ねながら進めていることは評価できる。すでに、全国の地方で廃校が加速しており、文部科学省の対策も一部進んでいる。
この地域住民会議における私見として、最も要望することは、児童のメンタルサポート体制だ。具体的には、スクールカウンセラーなどの専門家による面接や相談しやすい環境をつくることだ。さらに、保護者や担任教員などの相談にも応じられるように体制を整えてほしいと考えている。
以上、「閉校や廃校による地域住民会議の要望と在り方」として、私見を述べた。今後、閉校の可能性がある学校における地域住民会議などに参考にして欲しい。