「車椅子ギャル」として知られるYoutuber・さしみちゃんを、ひろゆきさんが擁護して話題になっています。今回は、車椅子ギャル・さしみちゃんが受けた苦悩について、障害者関連法規と社会の問題に分けて、解説します。
1.車椅子ギャル・さしみちゃんのエレベーター事件
車椅子ギャル・さしみちゃんが駅のエレベーターに乗ろうとしたところ、後ろから来た男性に抜かれて乗り込み、さしみちゃんが乗れなかったのです。その様子をYoutubeにアップしたところ、一部に批判的な投稿もあり、その動画を削除しました。削除した理由について以下のような動画をアップしています。
もう限界です。私からのお願い 【車椅子ギャル さしみちゃん】
https://youtu.be/jvz7ykvlIbw
ひろゆきさんは、「『優先です』っていうのをエレベーターの前で言いまくって、降りなかったら動画を撮りまくる」と提案をしました。さらに「乙武さんは、エレベーターに突っ込んでいくんですって。突っ込んでいったら、やっぱり降りる人は降りるんですよ。そうやって権利を主張しないと」と付け加えました。ひろゆきさんのような拡散力の強い方に、障害者の権利について多くの方知っていただけたことは、本当にうれしいことだと感じました。
2.国土交通省の啓発活動
国土交通省は、令和3年4月から、高齢者・障害者等用施設等の適正な利用の推進が、国・地方公共団体・国民・施設設置管理者の責務となったことを伝えています。旅客施設等のエレベーターについては、真に必要な方が優先的に使用できるように啓発しています。そして、「心のバリアフリー」として、一人ひとりが具体的な行動を起こし継続することが必要として、以下のポイントを示しています。
1.障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
2.障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
3.自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000014.html
3.障害者の私が考える二つの問題
私は車椅子を使用している身体障害者です。「車椅子ギャル」さしみちゃんが受けた苦悩の本質は、障害者関連法規の問題と、社会の問題の二つにあると考えています。
3-1.障害者関連法規の問題
日本における障害者に関する法規はたくさんあります。法規の略称と関係省庁について下にまとめておきます。ごく簡単に言うと、障害者を差別しない、障害のある建物など改修する、障害者の自立を支援する、雇用する、移動やコミュニケーションができるようにする、ということです。これらの法律は、戦後から現在までに制定され、障害者にむけた法律になっています。
2022年9月に国連の障害者権利委員会から”総括所見”が提示されました。この総括所見は、国連の権利委員会が日本の法律や事件などを調べた結果と改善すべきことを指示した文書です。会社でいうところの監査に相当します。この中で一番注目すべきことは、日本の法律は「温情主義的(a paternalist approach)」になっていると、障害者権利委員会から見抜かれていることです。
温情主義的とは、目下の者、下位の者に対して思いやりのある態度で接する考え方です。簡単にいうと、「やってあげているから、いいだろう」ということです。もちろん、日本の法律の中には、よくできている法律もありますが、国連の障害者権利条約の所見のように、「上から目線」の法律もかなり存在しています。
3-2.障害者関連法案
以下に障害者関連法案を記載します。
【内閣府】
・障害者基本法
・障害者権利条約
【厚生労働省】
・障害者総合支援法
・障害者自立支援法
・発達障害者支援法
・児童福祉法
・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
・身体障害者福祉法
・知的障害者福祉法
・社会福祉法
・福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律
・身体障害者補助犬法
・特別児童扶養手当等に支給に関する法律
・障害者雇用促進法
・障害者虐待防止法
・障害者優先調達推進法
・障害者差別解消法
【総務省】
・身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律
【文部科学省】
・学校教育法
・盲学校、聾学校及び養護学校への就学奨励に関する法律
・公立養護学校整備特別措置法
・盲学校、聾学校及び養護学校の幼稚部及び高等部における学校給食に関する法律
【国土交通省】
・高齢者障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)
・高齢者身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)
・高齢者身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)
3-3.障害者関連の社会問題
障害者に対する社会問題としては、日本は少数派(マイノリティ)は異様である、ということが感じます。これは、まわりをキョロキョロしながらみんなと同じことをする、というのが一番自分が傷つかないからです。まわりと違うことをする、違うことを主張する、というは、異様な目で見られ、批判を受けたり、仲間外れになってしまうことを恐れています。
先ほどのさしみちゃんがエレベーターに乗れなかったのは、すでに乗っている乗客は「みんなと同じようにエレベーターに乗っているだけ」だと思います。もしこのエレベーターが障害者優先と全員が知っていたとしてもです。誰かが乗り合わせた人に「エレベーターに乗れない車椅子のがいるから、降りましょう」と声を上げること自体が、乗客の”みんな”から冷たい目で見られ、批判を受けるかもしれないからです。
国連の権利条約や差別解消法において、「合理的配慮」という言葉があります。これは、階段にスロープを付けるなどの建築物のことだけではありません。もし車椅子の障害者が階段の下で待っていて、上に登りたいと希望したら、数人が集まって持ち上げればよいのです。これが、社会的な「合理的配慮」で、障害を理由とする差別の解消になります。つまり、助け合って社会生活を営むことこそが、「合理的配慮」であり、障害者の権利でもあるのです。
4.障害者の差別解消に向けて
日本の社会には、まだこのように理解している人は少ないのが現状です。この問題としては、障害者やLGBTQなどの少数派との接触頻度が少ないことと、義務教育でしっかり教えられていない、ことだと思います。最近では、会社で一定を雇用したり、一部の学校などでインクルージョン教育が行われていることは、基本的には良いことだと思っています。
障害者はそれぞれ障害の状態が違います。車椅子であればほとんどの人はわかりますが、軽度の視覚障害者や聴覚障害者は、その人を見ただけでは分かりません。そのため、助けを必要とする人は「ヘルプマーク」のタグを付けていますが、知っている人も少ないのが現状です。
上記のヘルプマークを付けている人を見かけたら、「何かお手伝いできますか?」と声をかけてあげてください。聴覚障害者であっても、ゆっくり話すと、口の動きで内容は理解できます。もちろん、手話ができればもっと良いと思います。ヘルプマークを知り、行動することこそが、本当の共生社会をつくりあげると私は思います。
5.まとめ
「車椅子ギャル」のさしみちゃんの動画について、ひろゆきさんが拡散することで、障害者の現状を多くの人に知ってもらったことをお伝えしました。障害者の権利について、多くの方に知っていただいたことは、非常に良かったと思います。障害者の権利について、所管する国土交通省も啓発活動をしていますが、国連の総括所見では、まだまだ不十分であると言えます。
障害者の問題については、法規の問題と社会の問題であると思います。この二つの問題について、解説しました。そして、「合理的配慮」という言葉の意味を知ってもらうとともに、ヘルプマークを付けている人には、声をかけていただきたいと思っています。そういった行動が増えていくと、障害者やマイノリティの方も生きやすい社会になると信じています。