不登校になったときにすべき対応といじめ問題の基本的取り組み

子どもが不登校になったときにすべき対応と、いじめ問題の基本的な取り組みについて解説します。不登校で悩んでいる家族や本人には、正しい対応と考え方を知って欲しいと思います。不登校は家族、特に母親が一手に引き受けて悩むことではないし、自分の責任だと感じることではありません。また、不登校になるケースは、いじめ問題の可能性が多くありますので、いじめ問題についての基本的な取り組み方法についても解説します。

1.不登校とは

文部科学省において不登校の定義が決められています。
不登校とは,長期欠席者の内、何らかの心理的,情緒的,身体的,あるいは社会的要因・背景により,児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために、年間30日以上欠席した者 (ただし,病気や経済的理由,新型コロナウイルスの感染回避によるものを除く。)と定義されています。

基本的には、小学校、中学校、高等学校を対象としていますが、大学や大学院、専修学校(専門学校)、フリースクールにも不登校は存在しています。つまり、「学校」という名の付くものには、不登校があるということです。

不登校が長期化すると、ひきこもり状態や家庭内暴力、自殺を試みるような問題行動をする場合があります。また、頭痛や腹痛などの心気症状抑うつ状態、対人恐怖症、脅迫症状などの神経的な症状があらわれる場合があります。

”心気症状”
心気症とは、医学的な診察や検査では明らかな身体疾患がないにもかかわらず、心身のささいな不調にこだわり、自分が何か重篤な病気にかかるのではないかと恐れたり、もうすでに重い病気にかかってしまっている、という強い思い込みにとらわれる精神疾患の一つです。さらに、心身の不調があることを身近な人に訴え、医師の保証も信じない状態になってしまうことがあります。
”抑うつ状態”
憂うつな気持ちがあったり、気分が落ち込んだりする、などの症状を「抑うつ気分」と呼び、その「抑うつ気分」が続いた状態を「うつ状態」もしくは「抑うつ状態」と呼びます。「うつ状態」や「抑うつ状態」は基本的には同じ意味で、一時的な気分の落ち込みを指しています。抑うつ状態が長く続き生活に支障がでて、苦痛が強い場合には「うつ病」と診断されます。

文部科学省において、不登校は問題行動としていません。そのため、学校基本調査では、「問題行動」と「不登校」をしっかり分けて集計しています。問題行動には、暴力行為、いじめ、自殺が挙げられます。多くの親御さんは、「学校に行かなければならない」、「学校に行くのが当たり前」という考えに固執していますし、周りの目を気にしてしまいます。まず、不登校は問題行動ではなく、その子の個性または単純に学校が合わない、と捉えてあげることです。

2.学年別不登校といじめ認知数

不登校は近年激増しています。上のグラフは2022年の小学校1年から高校3年までの学年別不登校といじめ認知数を、文部科学省の学校基本調査結果からまとめたグラフです。棒グラフが不登校の数で、折れ線グラフが学校側からみたいじめの認知数です。

不登校は、小学校6年生には2万5千人ですが、中学校1年になると4万5千人以上と倍増しています。これは、「中一ギャップ」と呼ばれています。中学校になると生徒を抑圧する規則が大幅に増えます。制服の規則や持ち物規則など意味の分からない校則や、部活への強制的な入部が挙げられます。さらにその部活には、年上に従わなければならないといった年功序列のような体制があります。これら規則やしきたりはすべて、子どもたちのパワーを失わせる結果となり、不登校の引き金になります。

このグラフで、中学3年から高校に進学すると、逆に不登校は減ったように見えますが、不登校になると退学する生徒が多くあると感じています。また、後述しますが、文部科学省の調査で、不登校といじめの認知数の相関がないのは、学校側からの調査なので、「いじめ」とカウントしていない場合があると感じています。

3.不登校になったときにすべき対応

不登校になったときにすべき対応について、フローチャートに照らし合わせて解説します。

3-1.精神・身体症状があるかを確認する

不登校になったときには、まずご本人が精神や身体症状があるかどうかを確認します。症状としては、頭痛、腹痛、過敏性大腸、不眠、うつ症状、認知や思考の異常、発達障害の症状、対人恐怖、脅迫症状、摂食障害などが挙げられます。症状が起こった場合には、医療機関に受診をして、症状がある場合には対応してもらいます。症状ない場合には、教師やスクールカウンセラーに相談します。

3-2.家族のみ医師に相談する

症状がある場合には、いきなり本人を病院に連れていくことは避けてください。医療現場も不登校対応ができないところが多いのです。最初からお子さんと一緒に行くと、お説教されてしまうことがある。「義務教育だから学校に行きなさい」などの間違った対応をされてしまいます。すると、子どもは医療不信になってしまいますし、お医者さんの言うことを聞かなくなります。まずは、親御さんが病院に行って話を聞き、その意思がまともであれば、お子さんを連れていくという順番にしてください。早く何とかしたいという気持ちはわかりますが、不登校には緊急性がありませんので、少し時間をかけて丁寧にやってほしい。

長野には以下の子ども専門のクリニックがありますので、参考にしてください。

”川中島Fメンタルクリニック”
院長:福家知則 先生
TEL:026-284-5568
https://f-mental.jp/

”信州大学医学部付属病院 こどものこころ診療部
部長:本田秀夫 先生
https://wwwhp.md.shinshu-u.ac.jp/departmentlist/bumon/kodomonokokoro.php
本田秀夫先生は、子育て応援のスマホアプリ「TOIRO」を監修しています。
https://toiroapp.com/

3-3.学校に相談する

学校に相談する目的は、外的な原因を見つけることです。文科省の調査では、不登校の原因のトップは「無気力」になっています。これは信じられません。この調査は学校側が集計してきたものを、文科省がさらに集計して発表するという仕組みになっています。つまり、学校側から見た不登校の要因というそれだけです。

すると、学校側は教師のハラスメントや生徒間のいじめは認めたくないので、明らかにハラスメントやいじめという原因であると明らかでない場合には、「この人は無気力だから」と簡単に決めてしまう、ということが問題だと思っています。その証拠に、同じ年代に当事者や当事者の家族の調査によると、いじめとハラスメントと家庭の問題がメインになっています。

3-4.外的な原因の解決

生徒間のトラブルや教師とあわない、といった外的な原因がある場合には、その原因の追究と解決をすることです。本人のせいではない、ということです。多くの場合、「いじめ」「ハラスメント」だと感じています。何よりも不登校になった原因の究明と解決が最優先です。当たり前なのですが、原因がある場合にはその原因を解決するということです。いじめがあった場合には、後述するいじめ問題の基本的取り組みをしてください。

3-5.話し合い・家庭訪問

原因が解決された場合にはじめて、話し合いや家庭訪問が可能となります。およそ半分ぐらいは話し合いや家庭訪問で解決する場合がありますが、半分はできません。大事なことは、本人の「拒否」を尊重してください。この時点で本人の希望(学校に行くか、行かないのか)を聞いてもうまくいきません。あまりにも本人のキズが大きすぎる場合には、原因が解決されたけど、行きたくないという場合もあります。その場合には、別の場所オルタナティブな場所に行くことです。その場合にも、本人には選択肢を与えますが、言葉にできない場合があるので、「拒否」することを尊重してください。

3-6.第三の居場所と連携

不登校の原因の解決がされ、話し合いや家庭訪問によって学校に再登校するのか、それともオルタナティブな第三の居場所にするかと選択ができるようになります。オルタナティブ(alternative)というのは、代替えという意味で、ここでは学校の代わりとなる居場所になります。現在は、こういった第三の居場所を探すのはご家族の務めになっています。

このことについて私はおかしいと思っています。学校側に原因があって不登校になっているわけですから、学校側が責任をもって、別の居場所を紹介するというのが、常識的な対応だと思っています。学校にとって関心があるのは、「いつから再登校してくれるのか」、という1点のみになっているのです。このような学校の姿勢に問題があって不登校が長引いてしまっていると考えています。残念ながら、当事者や親御さんが自衛策として、自身で第三の居場所を探すしかありません。

長野では第三の居場所としては、こども総合支援センター「あのえっと」(長野市)、子ども支援センター(長野県)と連絡をとって、中間教室や放課後こども総合プラン、教育支援センター「SaSaLAND」(長野市)などに行くことができます。。

こども総合支援センター「あのえっと」(長野市)
相談専用ダイヤル:0120-783-041
https://www.city.nagano.nagano.jp/n116000/kosodate/p001472.html

子ども支援センター(長野県)
子どもの総合相談窓口:0800-800-8035(子ども専用)、026-225-9330(大人用)
https://www.pref.nagano.lg.jp/kodomo-shien/kensei/soshiki/soshiki/kencho/kodomo-shien/index.html

民間の支援団体もあります。長野市では、「学校以外の子ども居場所施設・団体一覧」を公開していますので、参考にしてください。
https://www.city.nagano.nagano.jp/n601000/kosodate/p001547.html

4.教育機会確保法の理念

教育機会確保法とは、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」で、平成28年12月14日法律第105号として、公布されました。ごく簡単に言うと、「学校以外での学習も認める」ということです。この基本理念を以下に示しておきます。

①全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保が図られるようにすること。
②不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること。
③不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図られるようにすること。
④義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。
⑤国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること。

5.再登校がゴールではない

親御さんにまず認知してほしいのは、「再登校だけがゴールではない」ということです。教育機会確保法によって保障されているのは、教育を受ける機会が確保されれば、学校に行くことだけがすべてではないのです。つまり、再登校だけがゴールではないのです。

不登校には、「どうすれば、この子が元気になるか」を目標をします。そして、元気になったら、元気でい続けてもらうことが大切です。そのためには、先述した不登校のプロセスに沿って、正しく対応して欲しい。そのプロセスの中で、学校の先生やスクールカウンセラー、医師、親の会、フリースクールなどに相談したとき、それぞれアドバイスが異なる場合があります。そのアドバイスのうち、どれが正しいのかは、本人しかわかりません。

その選択肢の中で、「学校に行く」という選択肢もあります。ただし、数日間、学校に行ったからといって安心はできません。子どもは「親の気持ち」を観ています。「ああ、学校に行ってくれて良かった」と親が思っていると、子どもは「な~んだ、お母さんが安心しただけじゃん。私が無理して学校に行っているのに。。。」と感じるからです。

まず十分な休養期間を補償してあげて、必要に応じて中間教室やフリースクールなどのに行くなどの環境提供し、病院での治療も行ってください。大事なことは、常に本人の「拒否権」を尊重し、子ども自身が進めべき方向を選択できるまで、干渉を控えて見守る、ことです。「見守る」といっても、「何も関わらない」、ということではありません。基本姿勢として、子どもと関わりを持ちつつ、少しずつ働きかけながら状況を観察し、その結果に基づいて軌道修正をしていくことになります。

十分な休養期間としては、数か月から数年になることもあります。その間は安心・安全な場所にしておかなければなりません。そして、子ども自身が進むべき方向を自分で選択することになります。子どもが選択できない場合には、一つずつ試してみて「子どもの拒否権を尊重する」ことで、選ぶしかありません。

子どもと大人の信頼関係があれば、タイミングを計って「学校に行く」という背中をちょっと(ほんのちょっと)押してあげることはできます。信頼関係がすでに崩壊している場合には、再登校の刺激はしてはいけません。再登校がゴールではありませんが、結果的に再登校になることはOKです。再登校ではなく、第三の居場所を選んでもよい。その選択のプロセスすべてにおいて、本人がどれだけ主体的に関わっているのか、どれだけ大人たちがその主体性のある選択を受け入れるのか、ということが大事なのです。

6.いじめの影響は50歳まで続く

不登校の原因として、いじめがあります。世界的にも権威のあるイギリスの精神医学ジャーナル(2014年)に、日本人研究者である滝沢龍(たきざわ りゅう)氏が、高いエビデンスレベル(コホート研究)の論文を発表しました。タイトルは「小児期のいじめ被害が成人後の健康状態に及ぼす影響(Adult Health Outcomes of Childhood Bullying Victimization: Evidence From a Five-Decade Longitudinal British Birth Cohort)」です。

この論文では、7歳から11歳の小児期ににおいて、いじめにあった子どもは、50歳になったときにどういう状態になっているかを追跡調査をしました。その結果、うつ病にかかるオッズ比1.95倍、不安障害は1.65倍、自殺傾向2.21倍で、社交関係の欠如や経済的困難がみられて、生活満足度は低くなっている、という結論に至りました。

”オッズ比”
オッズとは、「見込み」のことで、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1 − p)に対する比を意味する。オッズ比とは二つのオッズの比のことであり、コホート研究での累積罹患率(罹患率)のオッズ比と、症例対照研究での曝露率のオッズ比がある。
出典:一般社団法人 日本疫学会

簡単に言うと、いじめを小学校時代に受けた子どもは、50歳になっても社交性が少なく経済困難になり、うつ病や不安障害などの病気に、約2倍程度もかかりやすいということです。小児期のいじめを受けると、ほぼ一生涯において傷を負い続ける、という私たちが危惧している感覚を証明したことになります。

7.いじめ問題の基本的取り組み

8-1.いじめとは

文部科学省がいじめを以下のように定義しています。

”いじめ”
「いじめ」を「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校(※)に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定義
※小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)
出典:文部科学省 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)より抜粋。

いじめの定義は、児童生徒間のいじめに限定されていることは、問題だと考えています。子どもが不登校になるのは、児童生徒間のいじめと教職員によるハラスメントの両方があるからです。このハラスメントには、体罰、侮辱的な言動、プライベートの過度な詮索、性暴力があります。

8-2.いじめ問題の基本的取り組み

いじめ問題の基本的な取り組みとしては、3つのステップがあります。このステップは最低条件であって、本当にいじめ問題が解決されたかどうかは、本人の心の中にありますので、今後の動向に注意深く見守る必要があります。

①加害者の謝罪
いじめ問題の原因が分かった場合には、加害者の謝罪をします。一部の学校では、被害者、加害者が双方に「ごめんなさい」とあやまり合い、握手をして終わりという場合があります。これでは全く何の意味もありません。

②加害者の処罰
加害者の処罰をします。処罰は何でも構いません。児童生徒の場合にはクラス替えや出席停止などがあります。注意しなければならないのは、スクールカースト化の予防です。例えば、ランダムな席替えなどがあります。
教師からのハラスメントの場合には、副校長や校長に直接クレームを入れます。それでも原因追及や処罰が行われない場合には、教育委員会に相談します。それでも納得いかない場合には、警察に被害届を提出します。

③被害者の納得
いじめ問題では、被害者の納得が必要です。加害者の処罰が十分でなかったり、悪質なものに対しては、警察や司法の介入などが入ったとしても、被害者の納得が必要です。これは、加害者と被害者、その両方の親御さん、教職員、必要であれば警察などの立ち合いの元に、被害者本人が納得することです。

この3つは必要条件でスタートラインです。これををまず行なっていくことで、被害者のPTSD化の予防になります。

”PTSD”
PTSDは、Post Traumatic Stress Disordernoの略で、心的外傷後ストレス障害と呼ばれています。
PTSDは、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。PTSDは、とても怖い思いをした記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて、当時に戻ったように感じ続ける病気です。
出典:厚生労働省(みんなのメンタルヘルス)より抜粋

先述したように、小児期のいじめは被害者の社交性や経済的、生活の満足度、健康に大きく影響してきますので、いじめをあった後のケアが必要です。一部には、加害者の救済も必要だ、という意見もありますが、一つのいじめ問題において「加害者には処罰がある」ということを、加害者やその他の児童生徒に理解してもらうことが大事なのです。そして、順序として、処罰を受けた後に加害者の心のケアも必要だと感じています。

9.まとめ

不登校になったときにすべき対応といじめ問題の基本的取り組みについて解説しました。不登校の定義と学年別不登校といじめの認知数において「中一ギャップ」という現象について説明しました。そして、不登校になったときの対応をフローチャートで詳しく解説し、正しく対応して欲しいと思います。

教育機会確保法により、学校だけが学習の場ではなく中間教室やフリースクールなどを利用することが可能になっています。そして、一番大切なことは、再登校をゴールとしないことです。子どもが元気になり、元気でい続けることが大事なのです。

不登校になる原因としていじめがあり、研究結果よると、小児期にいじめがあると、50歳まで生活や健康に大きく影響することもお伝えしました。そして、いじめ問題の基本的取り組みについての必要条件としての3つの必要条件についてもお伝えしました。

以上、「不登校になったときにすべき対応といじめ問題の基本的取り組み」と題して、お伝えしました。この記事によって、少しでも不登校といじめがなくなることを希望しています。